時短勤務の利用はいつまで?取得期限から給与の取り扱いまで徹底解説
共働き世帯が増えてきた現代では、育児や介護のために「時短勤務」を選択する家庭も珍しくありません。少子高齢化による労働力不足の解消や女性の社会進出をサポートするため、2009年の法改正により導入が義務付けられた時短勤務制度。取得を考えているものの、具体的にどのような制度なのか詳しくわからないという人も多いのではないでしょうか。育児・介護と仕事を両立するためにも、制度について知っておくことは欠かせません。そこで今回は、時短勤務制度の概要を踏まえ、取得条件や期間の制限はあるのかなど、気になるポイントを確認していきましょう。
時短勤務の概要は?
育児中の母親が取得するものというイメージの強い「時短勤務」ですが、そもそもどういった制度なのでしょうか。まずは制度の概要や対象者、取得条件や時短勤務中の給与の取り扱いなど、事前に知っておくべきことについて見ていきましょう。
時短勤務とは
時短勤務は正確には「短時間勤務制度」といい、1日の労働時間を本来定められた時間よりも短縮した勤務形態のことです。労働者が育児・介護といった家庭の事情と仕事を両立できるよう、2009年の育児・介護休業法改正により一定の条件を満たす企業に対して導入が義務付けられました。たとえば、9時に出社して1時間の休憩を挟み、18時に退社する社員に2時間の時短勤務が認められたとします。労働時間は本来の8時間から6時間となり、16時には退社して育児・介護の時間を確保できるという具合です。このような典型的な例のほか、フレックス制度や出退勤時間の変更などが認められる企業の場合、すべてまとめて時短勤務と呼ぶこともあります。
時短勤務の導入は法律で定められた義務であり、条件を満たす社員が時短勤務を希望すれば、企業は原則としてそれを認めなければなりません。もし企業が時短勤務を拒否すれば違法行為となり、企業名が公表されたり過料などの罰則が科されたりする場合もあります。
時短勤務が導入された背景
従来の日本では、家族の介護が必要になったり、働く女性が結婚や出産をしたりすると、家庭のために仕事を辞めるというケースが多くありました。社会構造として、仕事と家庭のどちらか一方しか選べないという二者択一ができあがっていたのです。しかし、少子高齢化が進む現代において、このような社会構造のままではいずれ深刻な労働力不足に陥ってしまいます。社員が次々に辞めてしまうと新しい人材が見つからず、企業の経営にも支障が出てしまうでしょう。これを避けるには既存の社員の退職を防ぎ、人材を確保し続けなければなりません。そこで時短勤務を導入し、仕事と育児の両立をサポートすることで少子化対策や労働力確保を目指そうとしたのです。
時短勤務を取得する条件
時短勤務は、育児や介護のために労働時間を短縮・変更したい場合に利用できます。ただし、希望すれば誰でも自由に利用できるわけではなく、一定の条件を満たさなければなりません。どのような条件があるのか、育児と介護それぞれについて確認しておきましょう。
育児による時短勤務の場合
育児で時短勤務を希望する場合、5つの条件をすべて満たさなければなりません。1つ目は「3歳に満たない子を養育する労働者であること」、2つ目は「1日の所定労働時間が6時間以下でないこと」、3つ目は「日々雇用される者でないこと」です。4つ目は「短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと」、5つ目は「労使協定により適用除外とされた労働者でないこと」です。なお、5つ目の条件である「適用除外とされた労働者」は、各企業の労使協定の内容によって異なるので確認しておきましょう。一般的には、働き始めて1年以上経っていない人、1週間に2日以下しか働いていない人、業務の性質・体制上時短勤務が難しい人などがそれに該当します。
これら5つすべての条件を満たしていれば、すべての労働者が時短勤務を利用できます。そもそも時短勤務は子どもを育てる人をサポートするための制度なので、雇用形態に制限はありません。一見すると正社員の権利というイメージがありますが、実は5つの条件さえ満たしていればパートや契約社員などでも時短勤務が認められるのです。「パートだから」と最初から諦める必要はないので、条件に該当していれば思い切って企業に相談してみましょう。
介護による時短勤務の場合
時短勤務は育児だけでなく、介護目的でも利用できる場合があります。日雇いを除き、要介護状態にある家族を2週間以上にわたり介護しなければならない労働者が対象です。ただし、こちらも育児のケースと同じく「労使協定により適用除外とされた労働者」は時短勤務が認められません。具体的には、勤続期間が1年未満の人や1週間に2日以下しか働いていない人などは、介護のための時短勤務が認められないので注意しましょう。
時短勤務の利用は「申告制」
育児でも介護でも、時短勤務は自動的に適用されるわけではありません。時短勤務はあくまでも労働者の請求により利用できる制度であり、黙っていると永遠に利用できないのです。たとえば、出産や育児で休業した場合、休業が明けてから子どもが3歳になるまで自動的に時短勤務が適用されるわけではありません。「会社は出産したことをわかっているはずだから」など勝手な判断で出退勤時間を変更すると、企業側とトラブルになる可能性が高いので注意しましょう。時短勤務を希望する場合は必ず事前に上司を通して担当部署と相談し、企業が定める正式な手続きを経てから時短勤務に入ることが大切です。
時短勤務はいつまで取得できる?
時短勤務の概要や取得条件がわかったところで、次に気になるのは「いつまで時短勤務できるの?」という点です。時短勤務は育児や介護に手がかかる時期のサポートという意味合いが強く、永遠に利用できるわけではありません。育児と介護それぞれのケースで一定の取得期限が設けられているので、内容を押さえておきましょう。
育児による時短勤務のケース
育児の場合は、法律上の利用条件が「3歳未満の子どもを養育する労働者」と定められています。つまり、取得期限は子どもが3歳を迎える誕生日の前日までということです。短すぎると感じる人もいるかもしれませんが、これはあくまでも法律上の話。法律では最低限の基準として「3歳未満」と定めているだけであり、3歳から小学校に入学するまでの間もできる限り社員の希望に応じて時短勤務を認めるよう、企業には「努力義務」が課されているのです。つまり、実際に時短勤務をどれくらい取得できるかは企業ごとに異なるため、就業規則などで確認しなければ断言できません。
厚生労働省が公表している「平成30年度雇用均等基本調査」によると、育児のために短時間勤務制度を導入している企業は全体の65.1%という結果でした。そのうち、時短勤務の取得期限を法律と同じ「3歳未満」までとしている企業は53.8%です。これに対し、小学校に入学するまで認めている企業は17.1%、小学3年生になるまで認める企業は11.4%、小学校を卒業するまで認める企業は6.3%でした。驚くべきことに、小学校を卒業した後まで認める企業も7.1%あります。短時間勤務制度を導入している企業のうち、半数近くが法律を上回る手厚いサポートを行っているのです。このように、実際の時短勤務の取得期限は企業によりバラバラなので、就業規則などでしっかり確認しておきましょう。
介護による時短勤務のケース
家族を介護するために時短勤務する場合は、取得した日から連続して3年以上にわたり、時短勤務やフレックス制度の活用などが認められます。また、介護休業などほかの休業制度と組み合わせて利用したり、必要に応じて2回以上利用したりすることも可能です。つまり、法律上は期限の上限がなく、極端に言えばずっと時短勤務のまま働き続けることも無理ではありません。ただし、時短勤務中は労働時間が短い分、本来自分がやるはずの仕事を周囲に任せてしまう場面も多いです。少なからず周囲に負担をかけてしまうので、いつまで制度を利用できるかは上司や企業側と慎重に話し合うようにしましょう。
なお、介護の場合は労働時間の短縮方法がいくつもあります。1日の労働時間を短縮するシンプルな方法だけでなく、週や月単位で労働時間を短縮する、特定の曜日にだけ出勤して全体的な労働時間を短縮するなど、柔軟な対応が可能です。業務内容や繁忙期など企業側の都合も踏まえた上で、上司と相談しつつお互いに負担の少ないスケジュールを考えると良いでしょう。
時短勤務中の給与はどうなる?
時短勤務をすると労働時間が減るわけですから、その分の給与がどうなるのか気になる人も多いでしょう。給与は生活に直結するものなので、できれば事前に知っておきたいところです。次は、時短勤務中の給与の取り扱いについて見ていきましょう。
基本は「ノーワーク・ノーペイの原則」
企業は労働の対価として労働者へ給与を支払うことが義務付けられていますが、民法では「労働者は労働が終わってからでなければ報酬を請求できない」とも定められています。このため、働かない限りは基本的に給与が発生しません。たとえば、本来9時から始業のところ、労働者の遅刻により11時から働き始めたとします。この場合、企業は働かなかった2時間分の給与については支払う義務がないのです。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といい、労働者の都合のほか、天災など誰のせいでもない理由で働けなかった場合にも適用されます。
時短勤務は労働者の請求によって企業が認める制度なので労働者の都合となり、ノーワーク・ノーペイの原則に該当するため基本的には給与が発生しません。つまり、時短勤務した分だけ毎月の給与が減ってしまうのです。ただし、時短勤務中の給与の取り扱いについて、法律で明確な定めがあるわけではありません。このため、実際のところ給与を支払うかどうかの判断は企業に任されています。フルタイムで働いた場合と同じく支払ってくれる企業もあれば、短縮した労働時間分をきっちりと給与からカットする企業もあります。
ただ、フルタイムと同じ給与を支払ってくれる企業はそう多くはないでしょう。働く時間が短いのに同じ給与を支払っていると、フルタイムで働いているほかの社員との公平性が保てないためです。詳しくはそれぞれの企業の就業規則を確認する必要がありますが、基本は短縮した時間分だけ給与が減ると考え、取得期間を検討するようにしましょう。
給与の計算方法はこちらを参照
どれくらい給与が減る?
育児のために時短勤務をする場合、1日の労働時間は原則6時間とされています。それまでフルタイムで8時間働いていた人が6時間勤務になった場合、ノーワーク・ノーペイの原則に当てはめると単純計算で給与は8分の6にまで減ります。たとえば、月に24万円の給与をもらっていた場合、時短勤務になると18万円しかもらえません。フルタイムのときと比べ、ザックリと計算しただけでも実に25%も給与が減ってしまうのです。しかも、時短勤務中は原則残業ができないため残業代ももらえませんし、役職に就いていた人は役職手当もカットされる可能性があります。
さらに、給与から天引きされる社会保険料は前年度の給与をもとに計算されるため、時短勤務になったからといって保険料が下がることもありません。育児休業を終えて時短勤務となった場合、報酬月額変更届を提出すれば時短勤務の給与に見合った保険料への引き下げも可能ですが、手続きを忘れるとこれまで通りの社会保険料を支払うことになります。ただでさえ減ってしまった給与から残業代や各種手当もなくなった上に、これまで通りの社会保険料を天引きされるとどうなるでしょうか。手取りの減額分は、25%どころでは済まないかもしれません。いざ時短勤務を始めてから給与の少なさに慌てないためにも、事前に給与がいくらになるのか詳しく計算しておきましょう。
なお、上述したように時短勤務中の給与の取り扱いは企業の判断に任されます。時短勤務になった後もフルタイムと同じ業務をこなしている場合など、交渉次第でフルタイムと同程度の給与を維持できる可能性もあります。あまりに給与が下がって困る場合は、一度上司に相談してみるのも良いでしょう。
時短勤務を活用して仕事と育児・介護を両立させよう!
時短勤務の取得期限は法律で定められているものの、それ以上の手厚いサポートをしている企業も多いです。利用条件さえ満たせばパートや派遣社員でも利用できる労働者の権利であり、働く女性やその家族にとって大きな助けになってくれるはずです。まずは就業規則で自社の制度内容を確認し、最大限に活用して仕事と育児・介護の両立を目指しましょう。