管理栄養士が実践! 働く母のごはん作りが楽しくなる〝がんばらない食育〟
子育てをしながら仕事をする母親は毎朝、時間との闘い。洗濯機をセットして、朝ごはんを作って食べさせて、身じたくを整えて保育園へ――そして出社。そんな忙しい毎日を送る母たちの心の片隅に、常に引っ掛かっているのが「食育」という言葉ではないでしょうか。6歳児の母親として子育て真っ最中の管理栄養士・中津川かおりさんに、働く母親も実践しやすい〝がんばりすぎなくていい食育〟についてお話を伺いました。
中津川かおり
管理栄養士・
SAKURA DELI オーナー
「食育」とは生きるうえでの基本を教えること
「食育」という言葉は、2005年6月10日に「食育基本法」が成立してから広く使われるようになりました。
食育は生きるうえでの基本であり、知育・徳育・体育の基礎となるもの。食を通じてさまざまな経験を重ねることで「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。食に関する正しい知識を理解することで、さらに「食」を楽しむことができ、「食べること」「作ること」などにも興味を持つことができます。(農林水産省HP「食育の推進」よりhttp://www.maff.go.jp/j/syokuiku/)
体への影響よりも楽しむことを大切に
子どもが苦手なものを「体にいいから」という理由だけで無理強いすると、子どもが食に対してマイナスのイメージを抱いてしまいがち。私は、体にいいかどうかより、家族で食を楽しむことのほうが重要だと思っています。
毎食、完璧を求めず、楽しく食べる! 楽しいからこそ、子どもは食に興味を持ったり、食べることが好きになったりすると思います。
完璧な栄養バランスや品数を揃えようとせず、時間がないときは、おむすびだけや、トーストとスープだけとかになってもいいと思います。もちろん、毎日、糖質のみの単品食では成長期の子どもたちに必要な栄養分が不足してしまいます。ゆで野菜を作り置きして皿に盛るだけ、そして目玉焼きを作るくらいなら、そこまで手間隙かけずに作れます。
簡単に食べられるミカンやキウイフルーツなどをストックして、ビタミン補給に役立てるのもおすすめ。そんなふうに、簡単にできるものだけでも栄養のバランスは十分に整えられます。手間をかけたからバランスの取れた食事になるとも限りません。
〝インスタ映え〟はいらない
SNSの普及で、素敵な食卓の写真を目にする機会が多くなりました。子育て中のママさんでも、品数が多く、スタイリングまで完璧なプロ並みの食卓写真をアップする方もいらっしゃいます。
そんな画像を目にするたびに、「私ってダメな母親・・・」「もっとがんばらないと!」などとあせったり、劣等感をいだいてしまったりするお母さん方からの相談を多く受けます。
ですが、子どもは、果たして、そこまで求めているのでしょうか。ちょっと違うように思います。
仕事から疲れて帰ってきて、イライラしながら手の込んだ料理を作って険悪な雰囲気で食卓を囲むより、簡単で品数が少なくても、その日の出来事を話しながら穏やかな気持ちで食卓を囲むほうが、子供にとっては幸せなのではないでしょうか。
大人よりも子供のほうが味覚は敏感です。鮮度のいい食材を選べば、あまり手間をかけなくても、切るだけ、茹でるだけでも、子どもはとてもおいしそうに食べてくれます。手の込んだ料理のほうがいいとも限らないのではないでしょうか。
身近なところから食育を
私には6歳になる娘がいます。先日、こんなことがありました。
インスタにアップされた食卓の画像を私が見ていた時のこと。
娘(当時5才) 「これはママが作ったの?」
私 「違うよ! お料理が上手な人が作ったんだよ! すごいでしょ?」
彩り豊かな料理の数々。何品並んでいたか覚えていないほど、まさにインスタ映えする、それはそれは素敵な食卓だったのですが
娘 「私は、そんなのイヤだ!」
私 「どうして? ママは、いつもこんなに作らないけど、いろんなお料理が並んだ方がうれしくない?」
娘 「こんなにあったって、食べきれなくて残しちゃうし、ママがこんなにお料理作ったら、一緒に遊ぶ時間が少なくなるじゃん! 私は納豆ご飯と大根のお味噌汁があればそれでいいよ。でもね、ときどき、目玉焼きとブロッコリーとか、かぼちゃのスープも作ってね! あと、一緒にクッキーとか、ドーナツとか作ろうね!」
5歳の娘に、少し救われた気がしました。管理栄養士という専門職でありながら、仕事に追われ、ヘトヘトで帰ると、正直、料理を作るのがとても面倒になる日もあります。そんな日は、ワンプレート盛りですむ簡単な料理にしたり、朝は、前の晩の残りものやごはん、味噌汁、目玉焼きなどのシンプルな食卓です。
本当に時間がないときは、味噌汁に卵を入れて品数を減らし、洗い物を減らします。
出産して仕事に復帰し、まだ生活のリズムが整っていなかった頃は、娘をベビーカーに乗せ、小さく握ったおにぎりを右手に、左手には野菜ジュースを持たせ、保育園までの道中が娘の食事タイムだったこともよくありました。時間に追われ、猛ダッシュでベビーカーを押していたので、娘の食事時間はとても短いものだったように思います。
管理栄養士という職業柄、周りのママさんからは、いつも完璧な食事を作っていると思われがちですが、実際は、そんなことありません。完璧にしようとがんばっていた時期もありましたが、がんばるのをやめたら、仕事と子育ての両立を楽しめるようになりました。
時には割りきって、外食を楽しむようにしています。それによって、初めて見る食材に興味を持ち、食べられるようになったものも。環境が違うのも、子どもにとっては、ワクワク楽しい空間だったのかもしれません。
もちろん、しっかりした食事作りができるのあればそれに越したことはないと思いますが、SNSの情報に左右されず、自分のスタイルで食と向き合えればいいと思います。
そして、わが家は、遊びの中で農業や収穫に触れる機会を積極的に作るようにしています。実家や知り合いの農家さん、収穫ができる果樹園に足を運び、自分が食べているものがどのようにして作られているかを、教えるのではなく体感させています。
目で見て、触れて、聞いて、食べて、嗅いでみて。五感を全部使って感じ取らせるようにしています。遊園地も楽しいけれど、畑や田んぼにも、田植え機やトラクターといったアトラクションがあります。食育を兼ねたアミューズメントパークだと思って、親子で楽しむのも、きれいな空気の中でリフレッシュするいい機会になるかもしれません。
自分が収穫したものや、身内が作った(生産者の顔が見える)食べものは、子供にとってまた格別のよう。「食べなさい!」などと言わなくても、自ら進んで、うれしそうに頬ばります。食育は、家の中だけでなく、思いきって環境を変えて屋外で楽しみながら体験することのほうが、子どもにとっては効果的なこともあるかもしれません。
とは言っても、一般的にはなかなか難しいことかとも思いますので、ベランダなどで実る植物を育ててみて、収穫し、食べてみるというだけでも、十分な食育になると思います。ぜひ、親子で楽しんでみてください!