男性の育休とは何?取得時期の決め方やメリット・デメリットを解説
日本ではまだまだ取得率は低いものの、男性が育休を取ることは当たり前になってきました。しかし、具体的にどのような制度があるのか、いまひとつ知らない人も多いのではないでしょうか。この記事は、育休の活用を検討している女性に向け、「パパ休暇」や「パパ・ママ育休プラス」などの男性の育休の基礎知識を解説します。また、男性が育休を取得するタイミングの決め方、男性が育休を取るメリット・デメリットなども説明します。男性の育休を上手に活用して、育児の負担を減らしたり、キャリアプランを継続したりするために役立てましょう。
男性の育休とは?
ここでは、そもそも育休(育児休業)とは何か、男性が育休を取得する条件、男性の育休取得率の現状などについて解説します。
#男性の育休は育児・介護休業法で認められている
男性が育休(育児休業)を取得することは、育児・介護休業法という法律によって認められています。子が1歳(条件によっては最長2歳まで)になるまで、企業に申し出ることによって取得できます。雇用契約を1年更新している人など一定の条件を満たすと、有期契約社員でも育休を取得可能です。男性の育休は、パートナーの雇用状態とは全く関係ありません。妻が専業主婦であっても育休を取得できますし、妻が育児休業中であっても取得できます。
なお、まれなケースですが、就業規則に育児休業に関する記述がない企業もあります。この場合も、企業に申し出ることによって、男性は育休を取得できます。育休は男女問わず仕事と育児を両立するための労働者の権利なので、就業規則に書かれていなくても、法律によって取得が認められているからです。育休取得を拒まれてしまった場合や、何か疑問点がある場合は、会社の所在地を管轄している「都道府県労働局雇用環境・均等部(室)」で対応してもらえます。逆に独自の手厚いサポートを設けている企業もあります。たとえば「子どもが3歳になるまで育休を取得できる」などの制度を整えている企業もあるので、育休取得を検討している家族は、今一度、企業の就業規則を読み直しておきましょう。
#男性の育休取得率が低い日本の現状
厚生労働省の2019年度の調査によると、男性の育休取得率は7.48%と、国が目標としている水準を大きく下回っています。男性が家事や育児に参加する時間が、先進国のなかで最低水準であることと併せて考えてみると、とても深刻な事態といえるでしょう。これほど日本で育休取得率が低いのは、育児に対する意識が低い男性が多すぎるからなのでしょうか。先進国と比べれば、確かにこうした面があるのは確かですが、企業側が男性の育休を取りにくくしている問題もあります。このことは、育休取得を希望した男性のうち、37.5%が取得できなかったデータをみてもわかります(※三菱UFGリサーチ&コンサルティング「平成30年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査」)
国は2025年までに、育休取得率を30%に上げることで、女性の負担が大きくなっている現状を変えようとしています。ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活の調和)の向上によって、本当に豊かな生活へとシフトしていくためにも、男性の育休取得率の増加は欠かせません。
#育児休業と育児休暇の違い
育児休業が先に解説したように法律で定められている制度であるのに対し、育児休暇には法的な決まりがありません。育児休暇とは、育児のために休暇をとる、あるいは休暇中に育児をすることをいいます。したがって、年次有給休暇でない場合は、基本的に無給です。また、育児休暇を認められる期間や時期は、就業規則や企業の判断によって異なります。ただし、国は企業に対して、「育児に関する目的で利用できる休暇制度(育児目的休暇)」を設けるように努力義務を課しています。そのため、小学校就学前の子どもがいる従業員に対して、休暇を取りやすい制度を設けている企業は少なくありません。育児休暇の制度と名称は企業によって違いますが、たとえば「ファミリーフレンドリー休暇」や「配偶者出産休暇」「子の看護休暇」などがあります。育児休業だけでなく、企業に設けられた育児休暇制度がないか調べておきましょう。このように、育児休業と育児休暇は全く違うものなので、区別が必要です。
夫婦で協力して子育てする場合の男性の育休パターンは2つ
夫婦で協力して子育てする場合、男性の育休パターンは「パパ休暇」か「パパ・ママ育休プラス」の2つです。それぞれの制度は、男性が育児に参加することで、女性の育児の負担を減らし、子どもの成長を見守りやすくするための制度です。また、仕事と育児を両立することで、女性の職場復帰を応援できる制度でもあります。それぞれの制度の概要とメリットを解説します。
#パパ休暇|男性は2回に分けて育休を取得できる
「パパ休暇」とは、男性が2回に分けて育休を取得できる制度です。たとえば、産後の女性の負担が心身ともに大きい時期に、1回目の育休を取ります。そして、いったん仕事に復帰し、子どもが1歳になるまでの間で再び負担が大きくなる時期に、2回目の育休を取ることが可能です。パパ休暇を利用する条件は、子どもが生まれて8週間以内に育休を取り、8週間以内にいったん育休を終了することです。この条件を満たせば、男性は期間を空けて、再び育休を取得できるようになります。なお、女性の場合は、特別な理由がない限り、子ども1人に対する育休は1回で取得しなければなりません。つまり、産後休業後に育休をスタートすると、予定した期間を使い切ることになります。パパ休暇は出産直後のサポートはもちろんのこと、女性の職場復帰を応援するために、上手に活用されています。
#パパ・ママ育休プラス|夫婦トータルで育休期間を1歳2ヵ月まで延長できる
「パパ・ママ育休プラス」とは、両親がともに育児に参加することで、育休期間を子どもが1歳までから1歳2ヵ月まで延長できる制度です。たとえば、女性が産後休業を8週間取得した後、子どもが1歳まで育児休業をとっていたとします。このとき、子どもが1歳になる前に男性が育休を取得すると、男性の育休期間を子どもが1歳2ヵ月になるまで延長できます。パパ・ママ育休プラスを利用する条件は3つです。1つ目は、子どもが1歳になるまでに、女性が育休を取得していることです。2つ目は、男性が子どもの1歳の誕生日前に育休を開始することとなっています。3つ目は、育休開始日が女性の育休開始日の初日以降であることです。パパ・ママ育休プラスを活用すると、親1人の最大育休期間は1年ですが、夫婦トータルでの育休期間を伸ばせます。たとえば職場復帰前後で女性の大変な時期に、パパ・ママ育休プラスで男性が育児を担当することで、負担を減らせるでしょう。
男性が育休するタイミングの決め方
男性が育休を取得するのに適したタイミングはあるのでしょうか。ここでは、女性が仕事をしている(職場復帰を考えている)ケースや再就職を考えているケースでの3つの代表的なパターンを取り上げ、それぞれの特徴やメリット・デメリットを紹介します。
#ダブル育児型|夫婦で育児を行ってワンオペ回避
女性の育休期間とほぼ重なるようにして男性が育休を取る方法です。たとえば、女性の産後休業後から1歳になるまで、ともに育休を取得して育児を行います。この方法のメリットは、夫婦が同じレベルで育児ができるようになりやすいことと、協力し合うなかで夫婦の絆が生まれやすいことです。子どもへの世話が行き届きやすくなることで、成長に好ましい影響があると考えられるでしょう。また、ワンオペ育児を回避できるのもメリットです。ワンオペ育児は、肉体的な負担だけでなく心理的な負担が少なくありません。たとえ男性側が育児や家事で多少迷惑をかけたとしても、心の支えになったというケースは多いようです。一方、家で一緒に過ごす時間が多いため、ケンカが増える可能性あることや、過度に依存し合う関係になるリスクがあることがデメリットです。また、同じ企業で働いていた場合、情報がシャットアウトされてしまうため、スムーズな職場復帰が難しくなるケースもあります。
#バトンタッチ型|女性から男性に育休を引き継ぐ
男性が女性の育児をバトンタッチするように、育休を取得する方法です。それによって、女性の職場復帰や再就職をサポートできます。たとえば、パパ・ママ育休プラスを活用して、1歳になる少し前から1歳2ヵ月まで、男性が育児をします。できるだけ早く職場復帰したいと考えている場合は、もっと前から男性が育休を取る必要があるでしょう。いずれにしてもバトンタッチ型は、育休によって仕事に影響が出てしまうことが心配な女性や、キャリアアップを優先したい女性などに適した方法です。一方、夫婦一緒で育休を取る期間がないため、バトンタッチが上手くいかないと、一時的に男性の負担が増えてしまうリスクがあります。不安な場合は、短期間でもよいので育休期間を重ねて、育児の先輩である妻から夫へと、やるべきことや育児のポイントなどをレクチャーしておくとよいでしょう。
#ピンポイント型|出産直後と職場復帰直後に男性が育休取得
出産直後と女性の職場復帰直後という、心身ともに負荷がかかる時期を男性の育休でカバーする方法です。先に紹介したように、パパ休暇を利用すれば2回に分けて育休を取れます。この方法のメリットは、女性が特に育児を手伝ってもらいたい時期に、男性のサポートを受けられることです。一方、男性にとっては仕事が細切れ状態になりやすいため、場合によっては、育休を取りにくい状況もあるでしょう。たとえば重要なプロジェクトや商談が進行中の場合、一時的に職場を去るのが難しいケースがあるかもしれません。また、女性が育児に協力できる余裕がない時期を担当するため、男性の負担が大きくなりすぎることもあります。
男性が育休を取得するメリットとは?
男性が育休を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、出産後も働きたい女性の視点から、キャリア継続や家計、夫婦関係などに、どのようなメリットがあるのか解説します。
#女性が仕事を辞めなくてもよい
男性が育休を取得することによって育児を分担することで、女性が退職しなくてもよいケースが増えます。出産をきっかけに退職を選ぶ典型的な例は、「仕事と育児を両立できないから」という理由です。「育児はしっかりしたいけれど、夫が手伝ってくれなさそう」という心配から、「私が辞めるしかない」と苦渋の決断をする女性は多くいます。企業にとっても、優秀な女性社員が退職してしまうのは大きな損失です。そのため、時短やテレワークで働き続ける方法を用意するケースも増えてきました。それでも、やはり男性の育休によるサポートなしには、十分な子育てができないと考える女性は少なくありません。管理職やリーダーなど責任を伴う業務を担っていた人などの場合、仕事を継続できても、今までどおりに働けないことが大きなストレスになることもあるでしょう。女性のキャリア継続をサポートするためにも、男性の育休取得は大きな支えになります。
#女性が働くことで経済的に楽になる
出産をきっかけに女性が一度退職した後にパートで働き始めた場合と、正社員として就労を継続した場合を比較すると、生涯賃金に大きな差が出ます。ニッセイ基礎研究所の「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」のシミュレーションによると、2人の子どもを出産して、その都度フルタイムに復帰した場合の生涯賃金は約2億3,000万円です(退職金を除く)。一方、第1子出産時に退職し、第2子が小学校に入学した時期からパートで働き始めた場合の生涯賃金は約6,150万円なので、差額は1億6,850万円になります。もちろん、これは特定のケースをシミュレーションした結果にすぎません。しかし、男性の育休取得によって女性が退職しなければ、多くのケースにおいて、家族の経済状態が楽になることは確かです。
#子どもの成長を夫婦で見守りやすい
育休取得を希望する男性の多くが挙げる理由には、「身近で日々成長していく自分の子どもを見守りたい」という意見が多くあります。人生におけるかけがえのない時間を、子どもの傍で過ごしたいと考える男性は増えてきました。特に1歳ごろまでは、昨日できなかったことが今日できるようになるなど、ドラマチックに子どもが成長する時期でもあります。実際、育休をとったことにより、人生観が変わる体験をする人も少なくありません。このような貴重な時間を子どもとともに過ごすことは、男性にとって大きな意義があります。そして、もちろん、育児の一部を男性が行うことで、女性の負担が減ることも大きなメリットです。おむつ交換や着替え、寝かしつけ、ミルクの準備など、何かと忙しいなかで、女性が大きなストレスを感じやすいことはよく知られています。育児の一部を男性が担うことで、女性も余裕を持って、より細やかな心配りで子どもの成長を見守りやすくなるでしょう。
#夫婦関係が良好になる
男性が育休を取ることで、育児や家事の大変さに気づくことが、結果的に夫婦関係の改善につながることもあります。やはり実際に育児をしてみなければ、わからないことはたくさんあります。たとえ短い期間であっても、どのような大変さがあるか男性に知ってもらうことは、信頼し合える関係を築くうえでよいことです。また、協力しながら育児や家事を行うことで、夫婦としての関係がより深まっていくでしょう。育休期間を通じて、家庭の大切さを重視する価値観を男性が持つようになり、夫婦関係が好転するケースもめずらしくありません。「企業戦士」という言葉は死語かもしれませんが、実際のところ、こうした仕事第一の男性は数多くいます。育児を通じて、家族にあったライフ・ワーク・バランスを保てるようになり、家庭円満になる場合もあります。ちなみに、育休後も帰宅時間を早めようと考えて、仕事の効率が上がったという男性の声もよく聞かれます。深夜まで残業できないことから、集中力やスケジュール管理能力、仕事の優先順位の付け方などが向上するためです。その結果、家庭で過ごす時間も確保できるようになり、さらに夫婦関係がよくなる好ましいスパイラルが生まれることもあります。
男性が育休を取得する場合に検討しておくポイント
男性が育休を取得する場合には、どのような注意点があるのでしょうか。ここでは、収入が減少することや、ハラスメントを受ける可能性があることについて解説します。また、男性が育休を取りたくないのに、無理に取得してもらった場合のリスクについても説明します。
#一時的に収入が下がってしまう
男性が育休を取得すると収入が減少してしまいます。男性の育休期間中の育児休業給付金は、育休開始から6カ月間は給与平均の67%、それ以降の期間は50%です。この割合では家計が厳しいため、育休を現実的に取れないと考える男性も少なくありません。ただし、育児休業期間中は社会保険料が免除されます。加入している保険によっても違いますが、月14%程度になるのが一般的です。したがって、会社員の場合は、育休前の8割程度の収入になると考えておけばよいでしょう。なお、収入が減った分、所得税や住民税も減ります。
育休による男性の収入減を検討する際には、育児休業中にいくらぐらい出費があるのか、知っておくことも役立ちます。厚生労働省の育休取得を検討している家族向けのパンフレット「仕事と育児両立読本」によると、育休中(0歳)の出費の内訳は、以下のとおりです。最も多いのが、全体の24%を占めている生活用品費(おむつやせっけん、お手拭きなど)で約22.2万円の出費です。また、同じく24%を占めているのが、子どもに対する傷害保険や積立金で約22.1万円となっています。そのほか、お祝い行事関連が約15.9万円、食費約11万円などを合計すると、トータルで約93.1万円の出費になります。これらの出費額と夫婦の収入・各種の支援金などをシミュレーションして検討しておきましょう。
#ハラスメントを受ける恐れがある
職場の上司や同僚から、育休を取得することを理由に嫌がらせを受ける恐れがあります。「男のくせに仕事を放りだすのか」「他の社員の負担を考えろ」などとハラスメントを受けるケースは、残念ながら、日本企業ではめずらしいことではありません。また、「育休を取得するなら出世はなくなると考えてほしい」「復帰後は給与が下がるかもしれない」などと、圧力を受ける場合があります。これほどではなくても、育休を取りにくいと考える男性は多いため、パートナーである女性も無理強いできないケースもあるでしょう。しかしながら、男性が育休を取るのは法律で保障された労働者の権利です。もし不当なハラスメントや扱いがあれば、信頼できる上司や人事労務などに相談してみましょう。また、社内での意思表示が難しい場合や、訴えても取り合ってもらえない場合は、労働組合や都道府県労働局に連絡する方法もあります。
#育休をしたくない男性もいる
育休を取得したい男性は増加傾向にありますが、なかには育休をしたくない男性もいます。たとえばキャリアプランで重要な時期にいる場合や、仕事への情熱や責任感などから、一時的でも仕事を離れたくない人はいるでしょう。このような場合は、最終的に育休を取得してくれたものの、育児に身が入らないことから、女性がイライラしてしまうケースがあります。ケースバイケースですが、女性が育児を手伝ってもらいたい場合は、妥協策として期間を指定することもできます。たとえば、出産直後や職場復帰の準備中は、フルに育休を取得しなくてもよいから短期間サポートしてもらうなどの方法です。出産をきっかけに退職した場合、再就職活動をするタイミングで男性に育休を取ってもらうなどの方法もあるでしょう。いずれにしても大切なことは、育休が取れる期間のスケジュールを、できるだけ具体的にイメージしておくことです。どんなに仕事ファーストの男性でも、パートナーをサポートしたい気持ちはあるでしょうから、夫婦で育休プランを話し合うことで、上手な活用方法がみつかるはずです。
男性の育休は育児だけでなく女性の職場復帰・再就職にも活用できる!
男性の育休を上手に活用している家族が増えています。2回に分けて育休を取得できるパパ休暇、1歳2ヵ月まで期間を延長するパパ・ママ育休プラスが活用できるので、上手に活用しましょう。男性の育休取得は、育児のためだけでなく女性の職場復帰や再就職のためにも役立ちます。夫婦の育休期間を同じにしたり、女性の職場復帰を応援するために育休をバトンタッチしたりするなど、家族に合わせた活用方法を選びましょう。
関連記事>>育休明けの転職は不利?ワーキングマザーが転職を成功させるポイントと注意点