マミートラックとは?キャリアに与える影響や問題点と企業と女性が取るべき対策について
マミートラックに悩んでいる人は、実は多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルスによりリモートワークなど働き方の選択肢が増えた今、多くの方が「家庭や子育て」と「仕事のやりがい」の両立を目指せるようになってきました。 しかしまだまだ職場の理解や人員の配置転換などでマミートラックに乗ってしまう人はいるようです。
ここでは子育てをしている人材に特化したエージェントの視点から、マミートラックによる問題点やどのようにキャリア観に変化が起きるのか、また企業側と女性側のとるべき対策について解説していきます。
マミートラックとは
「マミートラック」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。ここではマミートラックについて説明します。
育児や家庭を重視することで、これまで活躍してきたキャリアの第一線から退くこと
マミートラックとは、出産の後、子供の子育てを重視することで、仕事における昇進や昇格などの機会を逃し、キャリアの第一線から退くことを意味します。
特に女性だけにある問題ではありませんが、まだまだ「女性(ママ)が育児をすべき」という風潮が強い日本では、多くの人がマミートラックに悩んでいると言われています。
子育てに多くの時間をかけることを求められることで、勤務時間の短時間化、残業ができない、子供の急病のため早退・欠勤が起きる、会議の時間によっては参加できないなど、パフォーマンスを発揮しにくい条件がつくため、必然的に評価されにくくなります。
また実際は時間に対するパフォーマンスが高い方でもなんとなくの印象により、昇進対象外とみなされ、給料が新卒時代まで減ったり、業務がオペレーション的になるなど、本人の志向性と関係なく機会を奪われてしまうのです。
仕事へのやりがいが強い人ほど余計にギャップを感じ、マミートラックに悩むケースもあります。
マミートラックの由来
「マミートラック」の名付けはもともとはネガティブな表現でされたものではないと言われています。
1988年に女性キャリアの推進を進めていた国際非営利団体(NPO)の当時代表のフェリス・シュワルツ氏が、女性の働き方を大きく2つに分けて「キャリア優先」と「キャリアと家族の両方を大事する人」としました。どちらの場合にも、望むべきキャリアへの十分なサポートを、という意味を込めて後者には企業からの育児休暇を含む手当を求めたのです。
しかし、最終的にキャリアと家族の両方を重要視する人への必要然とした理解・フォローなどが相まって「マミートラック」と名付けられ、本人の志向性と無関係な一方的な配慮として形を変えてしまいました。
逆にいうとこうした配慮により、志向性が合っている人には恩恵を受けているケースもあるのです。
マミートラックによって起きるキャリアへの問題
実際にマミートラックを経てどのような問題が起きるのでしょうか。実際の事例をもとに問題点を明らかにしていきます。
事例1:仕事内容が変わってしまう
「私は20代は多くの時間を仕事に捧げ、家に帰れば寝て、朝起きればすぐにオフィスに行くような成果を送っていました。スタートアップのバックオフィスを立ち上げ、自ら率先して社内のルール作りをすることにやりがいしか感じていませんでしたし、忙しいけど充実した毎日を送っていました。
しかし産後に育休から復帰すると、時短勤務が前提となると、復帰時の面談で『バックオフィスのアシスタントとして働いて欲しい』ということで明らかに責任の範囲が少なくなりました。周囲のメンバーは『お母さんだし、産後すぐは大変だから』と気を配ってくれていたのですが、私としては求めていない配慮でした。」
この事例からわかることは、産後は時短勤務や残業前提で働けないため、メインで任される仕事からあくまで担当者のアシスタント的な仕事となることが多いケースです。本人の希望であれば問題ないですが、周囲の誤解や一方的な解釈でポジションを変更されてしまうケースは少なくありません。
もちろん、補助的な作業になったり、全く畑違いな部署や仕事内容となった場合は給料も減額されるケースがあります。
事例2:社内外のコミュニケーションが難しくなる
「これまで企業向けての営業担当として、1人で15社ほどを担当し、売り上げランキングでも常に社内トップで活躍していました。しかし、産後、子供のお迎えをするようになってからは、他のメンバーと働く時間が異なるため、これまで行っていた朝礼や終礼ができなくなったり、クライアントに対して時間外の突発対応ができなくなりました。
メンバーの成果管理もしにくくなり、娘を迎えに行く道中でのチャットのみのコミュニケーションでは相手の表情や状態が読み取れず、マネジメントにも影響が出てきました。またクライアントの緊急の対応ができないことにより、迷惑をかけるなど、このままでは事業全体に迷惑をかけると感じ、自分から役職に関して外すように上司に相談しました。」
この事例は決して珍しいものではないでしょう。特に職種によっては社内外のコミュニケーションの上に成り立っているものがあり、放置すれば成果に大きく影響を与えてしまいます。
時間が合わなくなった場合は、それに応じたマネジメントに切り替える必要がありますが、頭でわかっていてもマネジメントも経験則から行うことが多いため、成果が出ず、結果役職を変更されたり、本人の退職につながるケースも多く、こうした失敗体験によりキャリアで上を目指すことを諦める方が多くなっています。
事例3:キャリア形成が難しくなる
「これまではバリバリと働いていたにも関わらず、自分自身が思ったより働けず、周囲に迷惑をかける毎日に嫌気がさして、一度リセットしようと退職を決意しました。
辞めた途端、コロナが広まり、あっという間に買い手市場に。自分の悩みや働き方はどんな会社であれば受け入れてくれるのかわからず、いまだに転職活動も進まず悩んでいます。」
マミートラックは個人と会社がお互いをしっかりと理解して、業務を相談することができている前提が必要なため、転職のハードルは高くなってしまいます。そうして転職を繰り返したり、派遣社員として勤務することで、正社員転職がしにくくなり、年収も下がり、ついにはキャリアに意味を見出せなくなる可能性があります。
マミートラックを防ぐために企業がとっている対策
マミートラックに乗った結果、育休復帰者が退職したり、キャリアへの好感をもてなくなっている状況は企業としても回避したい状態です。そのため、一定の企業では育休復帰者に対する対策を取っている場合があります。
産休や育休への理解を深める
産休や育休の取得実績が少ない会社では、なかなか社員の理解を得ることは難しいものです。
産休や育休は「休暇」のように言われることが多いですが、実際は産後、ボロボロの体で夜も2時間に1度の授乳やおむつ替えをしているケースも多く、身体的な疲労は仕事をしている方と変わらないどこか酷なことが多いです。
最近では育児休暇復帰者がいる職場への助成金なども支払われているため、わずかに社内への理解が得られるケースも増えてきました。
産休や育休を取ることを推奨しなくても経営層やマネジメント層が批判的な意見をすることがないよう、トップ自らが公に自社の方針を示すことが重要と言えるでしょう。
時短勤務制度の採用
未就学児の子供がいて、共働き夫婦のみの家庭では、保育園の送り迎えを両親のどちらかが行くケースが多いです。まだまだ日本ではお迎えは女性が行くケースが多く、相当職場が近い、もしくはリモートワークを利用できる環境でなければ時短勤務が中心となります。
現在、法律では3才になるまでであれば1日6時間の時短制度を利用できることを定めていますが、3才以降の取り扱いについては企業ごとの制度設計次第となっています。
また無事に小学校に上がった後も学童への預け入れが想定以上に短くなり、いわゆる「小1の壁」にぶつかるなど、小学校になった後も引き続き時短勤務に関する課題を抱えている人は多いのです。
現在では比較的希望の小さな(100人以下など)企業では、特に時短勤務の期間上限を設けていないところが多いようです。実際にワーキングマザー向けの転職エージェントはそうした企業への紹介が増えており、そうした企業への転職はマミートラックを回避する一つの方法とも言えるでしょう。
小1の壁についてはこちら:
https://www.qo-ol.jp/problems-of-entering-primary-school
フレックス制度の採用
インターネットやIT系の企業では、フレックスタイム制度の導入を進める企業が増えてきました。
フレックスタイム制度はコアタイム付きのものとフルフレックス制度のものに分けられますが、出勤時間の変更や退勤時間の変更などワーママには適した制度と言えるでしょう。
コアタイム付きのフレックスワークとは、就業規則に定める就業時間のうち、企業が定める時間(コアタイム)は就業の必要が出ますが、それ以外の時間はフレキシブルに就業時間を定めることができる制度です。
またフルフレックスとは、就業の開始、終了時間が一歳決まっておらず、日、週や月単位で定まった就業時間を満たせば勤務とみなされる制度です。
リモートワークの導入
コロナ禍によりリモートワークは一気に広がりました。導入に慎重な企業も導入を進めた結果、リモートワークの継続導入を決めた企業も一定数いるようです。
リモートワークの導入によって、通勤時間の削減やストレスの低減だけではなく、子供が発熱した際に看病をしながらも自分自身は勤務することもできるようになります。
またリモートワークは在宅での勤務を指示しているわけではないため、サテライトオフィスやより勤務しやすい環境での就業をしている人も多いようです。
家事代行やシッターサービスの補助
企業の中では、家事代行やシッターサービスの利用をする社員向けの補助費用を支払っているところもあるようです。
個人で継続利用した際は高額となるため、制度が導入している企業に転職する人もいるようです。
託児所の設置
企業内に託児所を設置している企業もあります。比較的社員数の多い企業がメインとなりますが、企業内託児所の設置がされている場合はギリギリまでの就業が可能だったり、優先的な入園ができるようになります。
特に土日勤務となっているサービス業などでは、平日の預け入れができる託児所は重宝されるでしょう。
育児休暇取得期間の延長
現在、国の政策として育児休暇期間は2年間までと定められています。しかし待機児童問題を抱える地域では、早生まれなどにより0歳児の預け入れが難しい場合は1歳児クラスへの応募申請となり、預け入れのハードルは高くなります。
こうした状況に備え、3歳まで育休期間を延長している会社も多く、安全策としてそうした制度を取り入れている企業は早期に対策をしている企業とも言えるでしょう。
業務の役割分担
時短勤務者等を主な採用ターゲットとして、ワークシェアリングを行なっている企業もあります。こうした企業は突発的な休みなどへの危機対応として、事前に一定の人のみが対応できる業務を減らし、誰でも実行できる体制をとっています。
お互いがフォローし合う関係性のため、必要以上に気まずくなることもないですし、理解されるため、心理的負担は少ないと言えるでしょう。
育休から復帰時の研修(オンボーディング)の実施
育休から復帰する際、1〜2年現場を離れていたことにより、マインドセットするための助走期間を設けている企業が増えてきました。
実際に復帰後1年以内の離職率を課題に抱えている企業も多く、即現場配属の場合にはギャップを感じやすいため「ならし期間」として研修を設置しているのです。
産前とは異なり、時間効率が要求されるため、企業ごとに研修内容は入れ替え、自社で引き続きパフォーマンスを発揮してもらうための取り組みを行なっている企業が多いようです。
定期的な面談の実施
育休復帰後、職場での働きづらさを感じていて、口に出して言える人とそうではない人がいるため、人事や上司主導の面談を実施している企業は増えています。もちろん、面談自体は多くの企業が実施しているので、話して合意した改善点を実際に改善できるか次第ではありますが、率先してコミュニケーションすることは重要でしょう。
逆縫いうと面談の様子を見て「ここでは難しい」と考える人もいるため、就業の継続を判断する場ともなっているようです。
残業を極力減らす
長時間勤務を当たり前のようにしている環境では到底産後も働き続けるのは難しい状況です。
残業がない環境にする一つの方法として、社員に残業の有無も含めて雇用契約を見直すこともあります。みなし残業代を支払っている企業も多くありますが、これを0円にすることで残業が契約的には不必要とすることができるためです。
一定期間だけでも双方にとって良い契約であれば実施に合意することも可能でしょう。
女性社員の理解も促進する
産後も引き続き現場で活躍している女性社員がいる環境では「働きやすい」と思われがちではありますが、たまたまこの女性社員がバリキャリで難しい環境に耐えてこられた可能性もあります。
そうした場合に、逆に「私は大丈夫だったのに…」と異なる基準を押し付ける形となり、状況は悪化します。企業側ではこうしたそれぞれの働き方に対する理解の促進を女性に対して行なっている企業もあります。
マミートラックになるのを防ぐ女性側ができる対策
企業からの対策と同時に女性個人として、何を求めているのかを明らかにすることも重要です。
自分のニーズを把握する
産後はとにかく時間がないため、「長時間労働が悪だ」「通勤時間をできるだけ削りたい」と考えることはごく普通です。ここで重要なのは、自分は職場に何を求めているのかをはっきりすることです。
これまでの仕事にやりがいを持っていた場合、これまでの業務や業務量をより限られた時間でこなさなくてはいけないことになります。
必然的に子供を寝かしつけた後に夜中まで自宅での作業が必要になり、弱音を吐けば評価されないという思いから、一人で抱えこでしまうことなります。
この生活を続けることができるなら人並みに評価されるかもしれませんが、本人としては「こんなんでいいんだっけ」と悩むことになります。
会社に評価されるのはもちろん大事ですが、どのような働き方を長期にわたって行いたいのかという願望をなんとなくでも持ち、そこに向けてどのように回りの環境を整えていくのかを決めるのが良いでしょう。例えば、「この配分で仕事をするためには自分一人では難しい。家庭も仕事も外部パートナーへの依頼内容を決める」「旦那に朝の送り迎えだけでも頼む」などです。
自分一人ではいずれパンクするので、あくまで中長期的に継続できる体制づくりを進んで行うのが大事です。
家族を巻き込む
リモートワークの普及によって、育児の形は大きく異なってきました。これまでの出社を前提とした勤務形態からの変化により、フェアに男性も育児参加ができる物理的距離となり、実際にお迎えを分担する家庭も増えています。
これまでの「当たり前」の慣習を見直し、家庭の中でどのような役割分担をするのが適切か、改めて話し合いの場を設けましょう。
いきなり育児に参加してもらうのが難しい場合には、育休の取得を数日でもお願いし、初期から大変さを身をもって理解してもらうのも良い旦那のマインドセットになるでしょう。
ロールモデルママの良いとこ採りをする
ロールモデルとして働きながら両立している方の話を聞くのも良いでしょう。特に大変な状況ではモチベーションの維持が難しくなります。時には息抜きや気分転換もかね、他の人が異なる環境でどのようにやりくりしているのかを聞くことで、新しい考えを取り入れることができるようになります。
実際に「子供のため」と言いながら、子供がそれを望んでいるわけではなく、自分自身がしたいように子供に接していただけだったと気づきを得て、そこから仕事にかける時間を増やしたママなどの話をよく耳にします。
不在でも業務が回るように作り込む
突然の早退や欠勤は変えられないものです。その際に他メンバーとの関係性を継続するために大事なのは、いかに問題なく仕事が回るオペレーションを組むことができるか、です。
マニュアルの作成だけではなく、取引先顧客やプロジェクト進捗状態をこまめにメモし、共有できる体制を作っておくことで、メンバーだけではなく、自分自身が大変な時に業務を回すことができるようになるのです。
大事なのは、個人の志向性に合わせて働き方を変えられる環境を作ること
企業と個人の双方にとって、産後のミスマッチにより退職となるのはマイナスの影響が大きいです。
企業にとっては、そうしたミスマッチの事例はそれ自体の退職はもちろんのこと、他の社内の未婚女性などへの負の影響を与えます。「この会社は出産すれば続けられない」先輩社員を通じてその事実を知った社員は出産までの会社と思って働くか、早急に転職の意思決定をする可能性もあります。
また個人にとっても、産後に時間制約が生まれた中での転職は継続的な就業に向けてのハードルが高くなっています。仕方ない状況はありますが、できるだけ退職は回避したいところです。
こうした状況にならないように、双方が双方のための環境を整えていくことが大事です。企業側はできるだけ配慮することができるよう制度を整えつつ、あくまで「働きやすさのみ」のためではなく、「成果を最大化する」目的で環境を整えていきましょう。個人としては、パフォーマンスを発揮するために、どのような環境を求め、その環境の中でコミットできることを約束することが大事です。
相互の束縛ではなく、あくまで相互の信頼のもとに関係性を構築することを忘れてはいけません。