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上村嗣美さん|完璧を目指さない。凄腕広報が出産後に確信した〝仕事も家事も子育ても、すべてをハッピーに回す秘訣〟

国内有数のインターネット企業・サイバーエージェントの広報を統括する上村さんは、4歳の女の子の母親でもあります。新卒で入社し、広報の第一人者と呼ばれるまでキャリアを着実に築いてきた上村さんに、子育てをしながら仕事でも活躍し続けるポイントについてお話を伺いました。


一貫して「120%の成果」を意識

入社当初から広報職のキャリアプランを描いていたのでしょうか?

最初から計画的に進めていたわけではありませんでした。広報の仕事がしたいという意思はありつつも、自分にどういう可能性があるか、どういうことが強みなのかまだわからなかったので、与えられた仕事に、とにかくがむしゃらに取り組むことから始めました。

途中、周囲が羨ましくなったり自分が何をすればいいのかわからなくなったりする時期もありましたが、まずは求められた以上の成果を出すことから始まるんだと気づいたのです。たとえば求められているものが100だとしたら、120にするにはどうすればいいか考えるようにしました。

それを実行し続けたら、いろいろな仕事がどんどん与えられたり、さまざまな機会が増えたり。意識はしていませんでしたが、振り返ってみると、自然にそうなっていたのです。

現在は、どのような働き方をされていますか?

正規の勤務時間は10時から19時ですが、私は育児中ということもあり9時に出社して17時まで。他の社員より早く退社するので、10時までにメールチェックなどできることを片付けています。

10時以降は、取材対応や打合せ、プレスリリースや取材対応した原稿の確認が中心です。事業が多岐にわたり子会社も100にのぼるため、チェックしなければならないリリースが1日に7~8本重なることもあります。

成果イメージから逆算しながら、それをいかに短い時間でできるようにするかが工夫のしどころ。仕事の効果性を考えながら取り組むことから実践しています。

現実をありのままに受け入れることの大切さ

出産の前と後で、生き方や考え方は変わりましたか?

子供を産んでから、すべてを完璧にすることは難しいということを受け入れようと思いました。子供がいて、仕事もして、家事もして、自分もきれいにして・・・すべてを完璧にするなんて到底無理なのです。

全部100点でなくてもいい。そのことに気づいたら「母親はこうでなければならない」「母親はこうしなければならない」という思い込みから解放されて、本当に楽になりました。

全部100点でなくてもいいなら、家事はアウトソースしようかな、とか、自分がリラックスする時間も必要だから、夫なり自分の母なり、そうではない人でも、ちょっと手を借りて、娘を見てもらう時間を作ろうかな、とか。それでいいと思えるようになったのです。

ただ、仕事をしていないお母さんと比べたら娘と接する時間は少ないと思うので、短い時間なら、たとえばスマホは見ないで置いておくとか、土日は娘が楽しめる予定を優先させ一緒に遊ぶなど、娘としっかり向き合おうと決めました。

「完璧を目指さない」という思いに至ったのは、いつ頃のことですか?

子供が産まれて半年後くらいでしょうか。最初は家事も育児も全部私一人でしていたのですが、がんばりすぎてストレスがたまり、一度爆発して。

子供が生まれたての頃は、やはり母親でないとできないことがある、と思い込んでいましたし、そう思いたい自分もいました。

産休・育休で、生活や思考の大部分を占めていた「仕事」がなくなって、その分、家事や育児を、それこそ120にしなければいけない、と思ってしまっていたのでしょう。

夫も全力で協力しようとしていたのですが、「私が何をしてほしいのか」「どうしたら助かるのか」「どうしたら私のストレスが軽減するのか」ということをきちんと伝えないまま、ただ爆発しても問題は解決しないので、これではいけない、と。

してほしいことと、べつにしなくてもいいことを夫にきちんと伝えるべきだし、自分がやるべきことを決めて、そうでないことは人の手をもっと借りて、私がハッピーで、笑顔でいられるほうが、たぶん子供にも家族にとってもいいな、と気がついたのです。

母親になったからといって急に母親業がうまくなるわけでもないし、得意不得意もあります。それなのに、一律に「母親はこうあらねばならない」とすべてを抱え込もうとするのは、何かおかしいなと、ハッと気がついて。

この核心が仕事に復帰する前にわかってよかったと、心底思っています。プライベートのストレスが軽減できれば、仕事でもパフォーマンスを十分発揮することができますから。

多様な生き方や価値観があたりまえの世界に

これからの目標や夢を聞かせてください。

母親だけに限らず、どうしても「こうあらねばならない」という思いにとらわれたり、人と比べて足りないものが気になったりするのはよくあることです。

でも人それぞれ何を大事にするか、選択するかは違っていいし、多様性があって当然です。自分と違う価値観の人を否定するのも好きではありませんし、いろんな考えがあると受け入れたほうが、楽ですよね。

娘は、私とは違う個性なので、自分の考えを押し付けないように気をつけていますし、「女の子だからこうでなければいけない」とも思っていません。

働く女性が増え、今の母親は育児に家事、仕事に教育といろいろなことを抱えながら日々を回している一方で、「母親はこうでなければいけない」という考え方がまだまだ根強い気がしているので、もっと多様性が認められる空気を作れればいいな、と思っています。まずは「母親はこうあらねば」という雰囲気を払拭することが、少しでもできたらいいなと。

それを実現するためにも、自分の言ったことに耳を傾けてくれる人がいる、そんな人になりたいと思っています。

photo by chiai