元人事が教える、働く母の人事評価の向き合い方
人に評価されることは誰しも、多かれ少なかれ抵抗を感じるものです。 他者と自分を比較され、優劣をつけられ、それが報酬に反映される。特に働く母の場合は人事評価と本人の気持ちには大きな「乖離(かいり)」が発生することがしばしばです。今回は人事評価と働く母との関係性について、一人の働く母として、また人事部で働いていた経験から、分かりやすく解説していきたいと思います。
目次
人事評価とは?
多くの会社で、半期に1度もしくは1年に1度訪れる「人事評価」。なぜ人事評価が必要なのかあらためて考えたことはありますでしょうか。感情としては「比較されるの嫌だなぁ。評価用資料を作成して提出するのは面倒なわりに給料大して変わらないし……」そんな風にマイナスにとらえがちなものだとは思います。
人事評価の目的は、企業にとっては「経営成果を上げるための一つの道具」です。経営成果を上げるために、従業員に現在の状態を認識してもらい、今後の目標に対しての意識を強く持ってもらう。つまりモチベーションのコントロールにつなげる意図があります。従業員個人においても「いまの自分を知る」ことで、去年の自分からどれくらい成長しているのかがわかります。1時間あたりで完了できる仕事量が増えたり、クオリティを上げ依頼者の満足度をあげることができたり。
主婦の家事においても同じことで、繰り返しの作業を経験することで脳は学習し、手先も慣れていきます。毎日のように野菜を切っていれば徐々にその時間も短くすむようになるし、形も均一になる。そのように日々知らず知らずに成長している自分を認め、褒めてあげられるチャンスが人事評価です。
働く母を苦しめる育短制度
とはいえ、正面から向き合っても変えられない評価制度もあります。 私自身も育短制度を利用して働いていたときには、モチベーションが下がるのが怖かったため、給与明細をチェックしないことが多かったのを覚えています。
育短制度もその企業によってさまざまだとは思うのですが、私の所属していた会社では、カットした時間の割合で給料も減額されるというオーソドックスな制度が適用されていました。
例えば、本来の規定だと実働8時間(9:00~18:00休憩1時間)であるものを、前後1時間ずつ短時間にし、10:00~17:00(休憩1時間)の6時間勤務にしたとすると、実働時間が規定の4分の3になるので、基本給も4分の3。つまり7.5割程度の金額になります。賞与に関しても同じ。さらに残業代が減ること、育児休暇中は人事評価対象外であることなど報酬面で育休前と比べて不満を感じていました。
さらに衝撃的であったのが、半期に1度の上司との評価面談のタイミングで「たなべさんは、育短だから評価のしようがないんだよね……。頑張っているのは分かってるけど。」と言われたことです。
勤務時間が短くとも、以前のように残業できなくても、任された業務に関しては完遂していたつもりであったし、やりきれていないことを何より避けて髪振り乱して駆けずり回って頑張っていたのに。私の社会人人生の中で、もっとも大きな挫折感を味わった瞬間だったかもしれません。
同じく当時の同僚からも、違う会社で同じように育短で頑張っていた友人からも同じ悩みを聞いたことから、現在の人事評価制度と働く母の実態があまりにもかみ合っていないと憤りすらも感じたものでした。
モト人事が提案する選択肢
人事評価制度と働く母の実態の乖離において、その差を埋めることは個人では限界があり、選択肢は3つだと思っています。
①育短制度をやめて、腹をくくってフル勤務で頑張ってみる。
②制度を変えられないか提案してみる。
③いまはこれでよし、と割り切る。
①の選択をする場合は、まずサポートしてくれる家族を事前に確保しておくべきです。保育園への送迎時間や、残業になった場合の家事育児など、自分の努力では変えられない部分をフォローしてくれる人がいるか、が大きなポイントです。また、ある程度は育短制度という枠で守られていた「残業してでも対応する」というシチュエーションも発生してくる場合もあります。
②に関しては、自分を変えられても人を変えることはできないように、会社の制度を変えることは一般の従業員では難しい。だからこそ、制度を変えることができるような立場や職につき、制度を変えられる身となっていくことを目指すのも一つの前向きなアクションではないでしょうか。長期的な目線や、相当の「強い思い」と「労力」は必要になりますが、マスで変化をもたらす目線も時には必要です。あなたがその立場になるのも近道でしょう。
③は明日からでもできることです。「今はしかたがない。今だけだから、と気持ちを割り切る。」シンプルなことですが、物理的に不可能なものに悩む時間が無駄です。できることから全力で”何を””いつまで”やるのかを明確にしましょう。あなたのやるべきことが段々と明確になるはずです。
人事評価を受けるポイント「前向きに、強気に。謙遜不要!」
最後に、人事評価を受ける際のポイントをお伝えするとしたら「前向きに、強気に自己評価すること。謙遜不要!」です。
大抵の評価システムでは、まず自己評価をした評価シートが上司に渡り一次評価をされます。あとは企業によって二次評価・三次評価とつながっていく多角評価の制度が多いものですが、まず一番初めに評価シートに書き込むのは自分であり、その評価シートの印象を決めるのは自分です。何より人事評価は、冒頭にお伝えしたとおり「いまの自分と向き合い、ご褒美をあげるチャンス!」なので、小さなことでもいいからこの期間で頑張ってきた自分をねぎらってあげてください。上司も見ていないような日々の頑張りを会社にアピールする数少ないチャンスでもあるので、日ごろ制度に報われていないと感じている働く女性こそ、どんどん前向きに自信過剰なほどに自分を高く評価してあげてください。上司に見られて恥ずかしい気持ちもあるでしょうが、あまりにも見当違いな場合は修正してもらえるはずですし、気づかれなかったらラッキー。直接だと言いづらいこともシート上でなら書きやすいですよね。
まとめ
評価は働き方の道しるべです。本当に日々頑張ってきたからこそ、前向きに自信をもって取り組んでもらいたいと思います。これは母でない方でも、男性でも同じことなので、ぜひ旦那様にも教えてあげてください。夫婦そろって評価アップ、報酬もアップしていったら家族全体の良い循環が始まるはずですよ。
【参考文献】
・人事管理入門 今野浩一郎・佐藤博樹 日本経済新聞社